──利上げしても円高にならない「構造」の話
最近、「日銀が利上げしたのに、なぜ円安なのか」という疑問をよく見かけます。私自身も、正直なところ「普通は円高に向かうのでは?」と思っていました。
しかし、為替の動きを追い、いろいろな解説を見聞きする中で、今の円の弱さは一時的な要因ではなく、長い時間をかけて作られてきた構造の結果なのではないかと感じるようになりました。
この記事では、短期的なニュースでは語られにくい「なぜ円が買われにくくなっているのか」という背景を、少し長い視点で整理してみたいと思います。
利上げしても円高にならなかった理由
一般的に、金利が上がればその国の通貨は買われやすくなります。今回の日銀の利上げも、教科書的には円高要因です。
しかし実際には、為替はほとんど反応せず、円安水準が続きました。
その理由の一つは、利上げ自体が事前に織り込まれていたことです。
市場が本当に注目していたのは、「今回上げたかどうか」ではなく、「この先、どこまで、どのスピードで上げるのか」でした。
日銀は慎重な姿勢を崩さず、中立金利の水準や、追加利上げの時期については明言しませんでした。結果として、「思ったより踏み込まなかった」という受け止め方が広がり、円を積極的に買う材料にはならなかった、というのが実情だと思います。
ただ、ここで疑問が残ります。
「それなら、もっと積極的に利上げすればいいのでは?」
実は、この問いに答えようとすると、為替だけでなく、日本経済の構造そのものに目を向ける必要が出てきます。
なぜ日銀は積極的に利上げできないのか
金利を上げれば、理論上は円高に向かいやすくなります。しかし現実には、大幅な利上げには大きなリスクが伴います。
国債の利払い負担
日本の政府債務はGDP比で250%を超えています。金利が1%上がるだけで、国債の利払い費は年間数兆円規模で増加します。財政状況を考えると、急激な利上げは政府にとって大きな負担になります。
家計と企業への影響
長年の低金利に慣れた経済では、住宅ローンを抱える家計や、借入に依存する中小企業にとって、金利上昇は直接的な負担増になります。特に、賃金が十分に上がっていない状況では、利上げは消費を冷やすリスクがあります。
成長期待の弱さ
そして、最も根本的な問題は、日本経済の成長期待が弱いことです。
金利を上げても、国内に魅力的な投資先や成長の見込みがなければ、資金は海外に向かいます。企業の海外投資が増え、配当や利益が海外で再投資される流れが続けば、円を保有する理由は弱まります。
つまり、「利上げできない」のではなく、「利上げしても円を買う理由が弱い」という構造的な問題があるのです。
円が買われにくい構造──何が変わったのか
では、なぜ日本経済の成長期待は弱まったのでしょうか。
ここから先は、私自身の実感も交えながら、少し長い時間軸で考えてみたいと思います。
輸出主導から輸入依存へ
かつて日本は、自動車や電子機器などの輸出で外貨を稼ぐ構造でした。しかし今は、エネルギーや食料を輸入に頼り、製造業の多くが海外に生産拠点を移しています。
貿易収支は赤字基調が続き、円安になるほど輸入コストが上がり、生活が苦しくなる構造になっています。
企業と資金の海外シフト
国内市場の成長が見込めない中、企業は海外での事業拡大を進めてきました。その結果、日本企業が稼ぐ利益の多くは海外で生まれ、海外で再投資されるようになりました。
この流れ自体は合理的ですが、円を持つ理由、円で投資する理由が相対的に弱くなったという意味では、円安圧力の一因になっていると言えます。
人口構造の変化──見えてきたツケ
そしてもう一つ、長期的に大きな影響を与えているのが、人口構造の歪みです。
ここで、少し過去の話をさせてください。
就職氷河期世代──放置されたツケが今、表に出ている
バブル崩壊後、日本には「就職氷河期」と呼ばれる時代がありました。私自身も、その世代の一人です。
本来であれば、社会の中核を担い、結婚し、子どもを持ち、消費し、納税する中心層になるはずだった世代でした。
しかし現実には、正規雇用の門が狭く、安い労働力として使われ、心身をすり減らし、将来への展望を持ちにくい環境に置かれました。
その中で、「結婚して家庭を持つ」「子どもを育てる」という選択肢は、多くの人にとって現実的ではなくなっていったと思います。
出生率が下がったのは、価値観の変化だけではなく、そうせざるを得ない環境が続いた結果ではないでしょうか。
これが経済にどう影響しているのか
子どもが生まれなかった結果、本来なら支える側になるはずだった世代が少なくなりました。
- 労働力の減少が進み、国内市場は縮小し続けています
- 社会保障費の負担が増え続け、財政の余力を削っています
- 将来不安から消費が抑制され、経済の活力が失われています
そして今、就職氷河期世代が高齢期に差しかかろうとしています。支える人が少なく、支えられる人が増える。
これは偶然ではなく、過去の政策判断の積み重ねによって、ほぼ必然的に生まれた状況だと思います。
この構造が、企業の海外シフトを加速させ、国内投資の魅力を低下させ、結果として円を保有する理由を弱めているのではないか──そう感じています。
円安は、構造を映す鏡
ここまでの話をまとめると:
- 日銀は大幅な利上げができない(財政・家計・企業への負担が大きい)
- 利上げしても円を買う理由が弱い(国内の成長期待が低い)
- 企業と資金は海外に向かう(国内市場の縮小と人口減少)
- 人口構造の歪みが経済全体を圧迫(過去の政策判断のツケ)
つまり、今の円安は、「政策の失敗」というよりも、日本経済の構造そのものを映していると言えるのではないでしょうか。
これは過去の話で終わらない
就職氷河期世代は、「運が悪かった世代」として語られることがあります。
しかし実際には、景気後退期に人を守る仕組みを作らず、長期的な視点で対策を打たなかった結果として生まれた世代です。
そして今、非正規雇用の増加、賃金の伸び悩み、将来不安による消費の停滞といった要素は、当時と重なる部分も少なくありません。
円安という現象も、こうした**「人を使い捨てにしてきた構造」の延長線上にある**ように思えます。
過去を振り返ることは、誰かを責めるためではなく、同じ失敗を繰り返さないためにあるはずです。
おわりに
円安は、突然起きた出来事ではありません。30年かけて積み重なった結果が、今、目に見える形で表れているだけだと思います。
目先の為替レートだけを追っても、本質はなかなか見えてきません。
「なぜこうなったのか」を考えること自体が、これからの選択を間違えないための一つの材料になる。そんなログとして、この記事を残しておきたいと思います。
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